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前回記事のまとめ
前回記事ではクワカブブリードにおける血統すなわち遺伝子の重要性について書いておりました。
いくつか専門的な単語も紹介しておりましたので改めて簡単に箇条書きで前回記事の内容を簡単に纏めてみます。
・いくつかの代表的な血統カテゴリが存在する(大型、美形・極太など)
・形質とは生物の性質や特徴のことである(大きさ、形、色など)
・形質を決めるのは「遺伝子(血統)」と「環境」である
・実際にある形質が発現している事を表現型と呼ぶ(大きい、色が赤いなど)
・狙った表現型の個体を羽化させるには、狙った表現型の個体を種親に選ぶ事が重要
ポイントとしては上記のような事を書いておりました。
今回紹介すること
この記事ではさらにもう一歩、「血統」について踏み込んだ内容を書いてみようと思います。
主な内容としてはどのようにして遺伝子が受け継がれ、実際に表現型として現れるのか。その辺の仕組について整理していこうと思います。
形質が遺伝する仕組み
ある形質が子孫に遺伝する時、どのような事が起きているのでしょうか。
染色体が分離して、それがくっついて、どうのこうの。
という生物の授業を覚えている人はそれほど多くはないと思います(笑)。
染色体とか塩基配列の話はさらに深い内容になりますので、今回は触れない事にします。
今回はもう少し概要的な部分について整理していこうと思います。
遺伝の仕組の基本になるのがかの有名な「メンデルの法則」になります。
メンデルの法則
遺伝法則の中で最も有名なのがメンデルの法則ではないでしょうか。
しわのある豆と、丸くしわの無い豆を例に遺伝の仕組を解明した素晴らしい研究の成果です。
今一度、メンデルの法則がどのようなものなのかを纏めてみます。
メンデルの法則は、優性の法則、分離の法則、独立の法則がありますがクワカブブリードを考える上で重要なのが優勢の法則と分離の法則になります。
優性の法則とは
ある遺伝形質があった時に、その表現型が対照的となる形質を対立形質と言います。
メンデルは緑になる豆と、黄になる豆という対立形質に注目してこの2つの対照的な形質をもつエンドウ豆を交配しました。
すると次世代であるF1個体群では全ての豆が緑になったのです。
これが「優性の法則」です。
形質には、交配した際にその形質が表現型として「現れるもの(優性)」と「現れないもの(劣性)」とがあり、F1世代では優性の形質のみが現れ、劣性の形質が現れない現象を「優性の法則」と言います。
分離の法則とは
優性の法則ではF1世代では全ての豆が緑になりました。では、F1世代を自殖したF2世代ではどうなるでしょうか。
上記を掛け合わせた個体(F1)を自殖(F1個体同士を掛け合わせる)したF2個体群を観察したところ、その遺伝形質は下記のように分離しました。
緑:黄色=3:1
これが「分離の法則」です。
分離の法則をさらに理解する上でホモ接合とヘテロ接合を理解しておく必要があります。
遺伝子というのは2つで対になっており、その組み合わせによってホモ、ヘテロと呼び名がついています。
同じ対立遺伝子の組み合わせであればホモ接合、異なる対立遺伝子の組み合わせであればヘテロ接合となります。
今回の例ですと、緑になる⇒X、黄色になる⇒x とします。
対立遺伝子の組み合わせと表現型は下記のようになります。
Xx:ヘテロとなり表現型は緑
xx:劣性ホモとなり表現型は黄
F1の対立遺伝子の組み合わせはXxですので、自殖すると下記のように分離します。
XX:Xx:xx=1:2:1
これを表現型での分離に置き換えると、緑:黄=3:1になるという事ですね。
質的形質と量的形質
ここまで書いてきたメンデルの法則をクワカブに置き換えてみましょう。
大きいヘラクレスと小さいヘラクレスを掛け合わせて出てきたF1固体を自殖(インブリード)してF2を得たとします。
①まずF1では優性の法則に従うと、どちらか片方の表現型になる?
⇒ならないです。
②F2世代では大きいヘラクレスと小さいヘラクレスが3:1に分離する?
⇒しないです。
これはどういう事かというのを考察する上で大事なのが「質的形質」と「量的形質」です。
質的形質(Qualitative Trait)
質的形質とはある形質が1つまたは2つ程度の、少数の遺伝子で決定されている形質で、メンデルが遺伝の法則の発見に至った形質はすべて1つの遺伝子で決まる質的形質だったのです。
つまり、一つの遺伝子でその形質の表現型が決まるという事ですね。
量的形質(Quantitative Trait)
量的形質とは複数の遺伝子の効果の総和によって支配されることが多い形質で、クワカブで重視される形質のほとんどが量的形質と考えられます。
「緑」か「黄」かというように、一見しただけで形質の差がはっきりと判別できるような質的形質は、誰がどんな環境で形質を確認しても間違いなく判別でき、F2世代の表現型は3:1に分離します。
しかし、体長が大きい小さい、胸角が太い細いなどの、ノギスで測ったりすることで得られるような形質は、質的形質のように単純ではなくなってしまいます。
例えば、180mmの♂であるAヘラクレスと、50mmの♀であるBヘラクレスを交配して雑種を得たとします。
そのF2個体群には恐らくですが、140mm,150mm,160mm,などの個体が分離してくると考えられます。
これらの数値から「大きい」とか「小さい」とかを明確に区別する事は難しいと思います。
つまり単純にメンデルの法則に従って表現型が3:1に分離するわけでは無いのが量的形質の特徴なのです。
QTLとは何か
クワカブで注目される形質はそのほとんどが量的形質ですので、そう簡単に狙った表現型を持った個体群を得る事はできなそうです。
ここでもう少し量的形質について深く考察していくためにQTLについて整理してみます。
QTL(Quantitative Trait Locus)
QTLとは量的形質遺伝子座を英語にして頭文字を取ったものです。
このQTLとは一体何者なのでしょうか。
細かい事を書くとかなりややこしい内容になってしまいますので、ざっくりと纏めていきます(笑)。
「QTLというのは量的形質の表現型に関与する遺伝子がある領域」です。
伝わりましたでしょうか(笑)。
ここまでに散々書いてきましたが、量的形質の表現型を決める遺伝子は1つではなく複数あります。
その数は3つかもしれないし、5つかもしれません。
そういう事すらわからないのが量的形質なんですね。
しかし、頭のいい人がいまして、量的形質の表現型を決める遺伝子を解析する手法が編み出されました。
それがQTL解析です。
QTLとは先にも書きましたが、量的形質の表現型に関与する遺伝子がある領域の事であり、遺伝子本体ではありません。しかし、近くにその遺伝子はあります(笑)。わかりにくい!
クワカブでも「大きさ」という形質の「大きい」という表現型に関わる遺伝子が恐らく複数あります。そのそれぞれの遺伝子を含む領域が大型になる表現型のQTLということですね。
複数あるQTLの領域に表現型を左右する遺伝子が存在しているわけです。
ここで大変重要なポイントです。
「この遺伝子ひとつひとつはメンデルの法則に従って分離」します。
次回記事では、大型血統とは何なのかについて量的形質・QTL・メンデルの法則をベースに考察してみたいと思います。
血統についてのシリーズ最終回になります!